恋を何年休んでいますか? 1
今年もまた、あの季節がやってくる。
恋人たちには甘い、愛しい季節。
「で、クリスマスも仕事なわけ?」
「うん、今年も年末まではずっと仕事。ここひと月は休みもほとんどないなぁ」
「美琴は彼氏と過ごすの?」
「もちろんだよ、今年は土日で仕事も休みだしね」
「あぁそうだね」
「ねぇ、もしかしたらプロポーズあるんじゃない?」
「…実は期待してる」
「うわぁいいなぁ!!」
「私もうすぐ31歳だよ。そろそろ結婚したいもん」
「付き合って何年だっけ?」
「先月で丸3年経った」
「あぁじゃぁそろそろかもね!」
「これでなかったら別れようかなぁ」
「いや彼氏、美琴にべたぼれじゃん。考えてそうだよね」
忙しい年末のこの時期、なかなか一日休みはないけれど、溜まった疲れを解消するために仕事終わりによく気心の知れた友人と会う。
アラサーと言われる年頃の女子の話題はだいたい仕事の話や結婚の話、彼氏の話が中心で、これが世にいう女子トークなんだろう。
いくつになっても女友達と恋バナとかをしていると楽しくて、時間を忘れてしまい、お酒を飲みながら3時間以上過ごすなんてのは当たり前である。
だけど、私自身は2年前に別れてからちゃんと付き合った人がいない。
「宇野ちゃん、この前紹介されたって言ってた人どうだったの?」
「あぁそういえば有紀が紹介したって言ってたね」
「うん、先月一度ごはんに行ったんだけど、その後忙しくてメールをたまにするくらいであれから会ってない…」
「タイプじゃなかった?」
「え、いや、優しそうで、話も面白くて、楽しそうな人だったよ」
「ふーん、でもピンと来なかったんだ」
「…予定が合わないのもあるんだけど、なかなか二回目会うっていうのが億劫で」
「こら、実彩子!!そんなことばかり言ってたら彼氏なんてなかなかできないぞ!」
「まぁまぁ宇野ちゃんは今仕事も忙しいし、不規則な仕事だから普通のカップルみたいには付き合えないよ」
「彼氏いない期間どれくらいだっけ?」
「もう二年かな」
「はぁ、もったいない。こんなに可愛いのに、世の男どもは何やってんだか」
「いやいや、実彩子が誰でもウェルカムじゃないからね、なかなかこの子の理想の人は現れないのよ」
「宇野ちゃんの好みの男性のタイプってどんな人なの?」
「…笑顔が可愛くて、レディファーストで、でも自分には強引で引っ張ってくれて、頼りになるタイプでしょ?」
「イケメンで、割と細くて、繊細で、涙もろくて、あと歌もダンスも上手な人でしょ?」
「…」
「そんな人いる?・・・あー、まぁ一人だけいるけど」
「「「唇王子」」」
「いや、ないから」
「じゃぁどんな人がタイプなの?」
そう言われると困る。
自分自身、私のタイプが『彼』だと自覚しているから。
「…優しくて、面白くて、頼りになる人かな」
「えーじゃぁこの前の人、いいじゃん」
「もう一回会ってみたら?」
「向こうから連絡ないの?」
「2日に一回はメールくる」
「じゃぁはい、今、次に会う約束取りつけよ」
「え、」
「え、じゃない!実彩子こうでもしなきゃ動かないじゃん。とりあえずもう一回会ってみて、ピンと来なかったらもう連絡も取らないようにしたら。相手も期待してるから2日に一回もメールしてくるんだし、脈がないならそれではっきりさせてあげなきゃ可哀想だよ」
「まぁ確かに忙しくて会うの大変だと思うけど、こうして仕事終わりにちょっとご飯だけでもいいんじゃない?
まずはもう一回会ってみて、駄目だったら来年新しい出会いを期待しよ!」
「ほらほら、もう向こうも仕事終わってるだろうし、とりあえず『今度ごはん行きませんか?』って送ってみて」
「お、返ってきた」
「早いね」
「なんて書いてある?」
『仕事終わったのかな?お疲れ様。
ごはん行こう。いつがいいかな?
俺は今週の夜であれば実彩子ちゃんに合わせれます。
来週は出張とかで日本にいないからその翌週とかならまた連絡します。
実彩子ちゃんはいつがいい?』
「今週だね」
「実彩子、予定は?」
「え、えっとちょっと待って」
手帳を鞄から慌てて出せば、びっしりとした予定が詰まっている。
「うーん、今週なら明後日20時以降なら行けそう」
「じゃぁそこだ」
『お疲れ様です。
今週なら明後日夜8時以降なら空いています』
『じゃぁ明後日8時にお店予約しておくよ。
何が食べたい?』
「返信早いね」
「うん、待ってた感あるよね」
「何食べたいって言われても、うーーーん」
「実彩子最近和食食べたいって言ってたじゃん」
『和食が食べたいです。
お勧めのお店ありますか?』
『いいお店知ってるよ。
じゃぁ当日迎えに行くよ。
どこで待ち合わせしようか』
『仕事が青山の方なので、近くまで行きます。
お店の場所を教えてください』
『じゃぁまたお店の情報あとで送るね』
『お願いします。
当日楽しみにしてます。
お休みなさい』
『おやすみ』
美琴たちに言われるまま、有紀に紹介された『高坂さん』と次に会う約束をした。
いつまでもこのまま前に進めないままじゃ駄目だ。
それは自分でもわかっているから、『恋をする』努力をしなきゃ。
でも、恋って努力をしてするものなのかな?
自然に誰かに惹かれ、
自分の気持ちなのに、コントロールできないほどの熱量があるもの。
私の中の『恋』は激しくて、苦くて、重くて、でも甘くて切ない、愛しいものだったーーー
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