My wish is... 第八話
時間は戻らない。
だから進むしかない。
その日は突然やってきた。
前触れはあったのかもしれない。
でも
私は気付かなかった。
いや、気づかないふりをした。
『話があるからこの後みんな残って』
NEWシングル『MAGIC』のMVの撮影が終わった次の日は朝からレコード大賞用の『涙のない世界』の歌唱練習の日だった。
衣装もほぼ完成していて、練習後に最終チェックを行ったあと解散予定で、
久しぶりに早く家に帰れるなと思っていた矢先だった。
「紅白の歌が決まったのかな」
例年だとその年出したシングルを歌っていたが、今年はNHKの意向でまだ歌唱曲が決まっていなかった。
もう年末まであと2週間もないから、そろそろ決まらないと練習もできない。
「ぎりぎりだよなぁ」
「何の曲だと思う?」
メンバーが各々ミーティング用の会議室へ向かっていく中、千晃だけがいつの間にか姿が見えなくなっていた。
「千晃は?」
千晃のスタッフに声をかけると一瞬声を詰まらせた。
「え、えっとトイレに行ったんじゃないですかね」
彼女の顔が強張るのに気づいてしまった。
「…そか。ありがとう」
気づいてはいけない何か。
不安が大きくなった。
そして千晃以外全員が揃ったミーティングルームに最後に千晃と統括マネージャー岩見さんとavexの統括部長がやってきた。
その瞬間、それまで好きなように過ごしていたメンバーが一斉に押し黙った。
きっとみんな、薄々何かしらの予感はしていたのかもしれない。
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