My wish is...   第九話


重い沈黙を破ったのは直也君だった。



「話って紅白の歌唱曲のことじゃないんですね」



私たちと向かい合うように座った千晃は、机の上で固く握られた手を見つめたまま動かない。


そんな千晃の様子と、いつもは人のいいおじさんである統括部長とAAAとの付き合いが長い岩見マネージャーが普段見せたことのない表情で頷くだけの様子を見て、

私たちはこの話というものがAAAにとってとても重要で、とても恐ろしいものだと瞬時に理解してしまった。




「伊藤、伝えることがあるだろう」



それまで下を見ていて千晃が、ゆっくりと私たち一人ひとりを確認するかのように見た。

その表情はいままで見たどんな千晃の表情とも違っていて、

私は知らずに手を固く握りこんだ。





「みんな、・・・・・ごめんなさい」



今にも倒れそうな真っ青な顔で、千晃は苦痛に耐えるように声を絞り出した。


その声は震えていた。




「私、妊娠しました」




妊娠しました



妊娠・・・




頭の中が真っ白になっていく。




何を言われているのか理解が追い付かない。





「妊娠?」





誰もが一瞬ぽかんとしたけれど日高君が誰よりも早く正気に戻ったようだった。





「うん、もうすぐ3か月」





「3か月…」





千晃が自分のおなかを愛おしそうに撫ぜるしぐさをした。


まるで自分に言い聞かせるように、先ほどの声とは違う意思のある声で千晃は私たちに告げた。






「みんなには…本当に、本当に申し訳なく思う。


こんな大切な時期に、


AAAがこれからって時に、



私はっ…




っだけど私は




この授かった命を大切にしたい。




これから先の人生は 




AAAの伊藤千晃としてではなく、




この子とこの子の父親と生きる道を選びたい。




みんな、



本当にわがままで、



勝手を言ってごめんなさい。






私はAAAを卒業します」









自分の今日まで信じていた明日が突然足元から消えるような感覚。




めまいのような、混乱がぐるぐると押し寄せて、



自分が何を言葉にすればいいのか、



どういう行動をとればいいのか、






その時の私はただ千晃の言葉を呆然と聞くことしかできなかった。





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