My wish is... 第十七話
年が明けた。
無事年末の大仕事、レコード大賞と紅白歌合戦、そしてNYPを終え、いつもならある爽快なほどの達成感も、
今年はどこか重い、空気を纏っていた。
今日も去年と変わらない、そんな一年の始まりになると信じていたちょっと前の私。
12月の初めのほうにあげたインスタを見て、
あれからまだ一月も経っていないことに驚く。
あの時は、
今年が自分と千晃にとってユニットして飛躍の年になるんじゃないかと思っていた。
楽しみにしていたことがたくさんあって、
そんな未来を夢見て笑いながら話し合った日々が懐かしい。
それももう過去になる、いや、なったんだと言い聞かせる。
「1月12日にホームページ上でファンに公表することになった。
伊藤のコメントと共に各自のコメントを掲載するから考えてほしい」
NYPのミーティングで、何度も千晃の卒業発表の日にちの話が出た。
千晃から妊娠・結婚・そして卒業を聞かされてまだ数日。
「NYPでは伝えないってこと?」
「直接会場で伝えるとなるとそれこそファンが混乱するし、来れなかったファンにも同じ条件で伝えないと不公平だからな」
「…」
「ファンにはこれが千晃が立つ最後のライブだって伝えたほうがいいと思う」
「ファンのみんなと言っても限られているし、それはどうなんだろう」
「来れなかったファンも荒れるだろ」
「でもホームページでいきなりなんて…」
「メンバーみんなでニコ生とかできへんの?」
いろんな意見が出た。
確かにファンを前にして直接伝えることが必ずしも正しいことかと問われたときに、NYPという限られたファンだけを対象にするのは間違っているのかもしれない。
だからホームページ上で誰しも同じ条件で、というのはある種正しいのかもしれない。
でも…
ファンには直接伝えなければいけないという思いが強かった。
千晃が『卒業』するということはAAAにとって大きな出来事で、
私たち自身それにまだ向き合えていなかったけれど、
同じようにこれまで応援してくれて来たファンが受ける衝撃も大きいだろうし、向き合うには時間がかかることは想像できた。
だからせめて、
本人の口から伝えるべきことだと思ったし、直也君はそう主張してくれた。
でも、
会社からはOKがでなくて、そして私たちもそれを受け入れた。
きっといろんな意見がある。
だから全員が納得できることなんてないとは思う。
それに、
どれだけ言葉を重ねても、
千晃が卒業するという事実を変えることはできないし、
それをファンの人たちがどう受け取るのかを私たちが推し量ることもできない。
ただ文章にすれば、少しは客観的に見れるかもしれない。
まだ出口が見えない思いの中で、
私が、私たちがファンに見せなきゃいけない姿は、
きっと文章のほうが、いいのかもしれない。
会社もスタッフさんも、
ちゃんとわかっているんだろうな。
私たちが直接話せば冷静でいられないって。
叫びたい、
わめきたい、
まだ納得できていない、
泣いても解決しないのに、
引き留めることなどできないのに、
直接ファンを前にして、
昔みたいに感情のまま言葉を吐くことが是ではないことは、
大人になってしまった今ならみんな理解している。
だから、文章なのだろう。
そしてそれを書くことによって、
きっと私たちも今よりは少し、ほんの少し前に進めるかもしれない。
6人でグループを続けると決めた日、皆が苦しんでいた。
まだ先が想像できなくて、
でも、ここで手を放してしまったら、
もう二度と戻れないような気がした。
誰もが不安で、誰もがどこに吐き出せばいいのかわからない怒りや、困惑、悲しみを持っていた。
あれからまだ2週間ほど。
まだ言葉にするほど誰も前に進めていない。
まだ誰も、深く先を観れていない。
でも、時間は待ってくれない。
千晃の卒業を伝える日がすぐそこに迫っていた。
どんなニュアンスで、どんな言葉を選べばいいのだろう。
受け取る人はさまざまで、
私たちの思いがちゃんと伝わるのか、不安が大きい。
けれども対外的にもきちんと文章にしなければいけないのだ。
感情だけで書くことはできない。
それがこれからもAAAを続けていくためには必要な作業なのだから。
こうして私たちの終わりと始まりの一年が幕を開けた。
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