My wish is... 第十六話
会社との話し合いはとりあえず年を明けてから行われることになった。
今は、目の前の仕事をこなすことにみんな精一杯で、
深く、千晃が抜けたその後を考えないようにしているようでもあった。
そうしなければとても、今までのように7人で笑いあうことが難しかったから。
いずれ考えなくてはいけないと誰もがわかっていたけれど、今はまだ外に気づかれてはいけない。
露出が増えるこの時期だからこそ余計、メンバーもスタッフも、テレビからこのことが伝わってしまわないように神経を使っていた。
「宇野ちゃん、このあと夕飯付き合ってや」
NYPのミーティングが終わり、荷物を片付けていると真司郎に声をかけられた。
ここ最近、遅くまでみんなと顔を合わせていたが、誰かと食事に行くこともなかったから少し驚いた。
「…いいけど仕事今日はもう終わり?」
「とりあえずは。あとは家で出来ることやし、最近一人での食事ばっかりやったし付き合ってよ」
「…じゃぁおいしいイタリアンがいいな」
「まかしとき」
夕食には少し早い時間、空いている店内で真司郎と向かい合いながら食事をする。
こういう誰かと一緒の食事もここ最近なかった。
しかも真司郎と二人とか。
だいたいいつもほかのメンバーかスタッフさんがいたから二人っきりというのはかなり珍しい。
「宇野ちゃん、最近ちゃんと寝てるん?
目の下、すごいクマやで」
「真司郎はお肌つるつるだね。
…こんなときでも寝れるのはすごいね」
「こんな時やからこそやん。
みんな、顔に出過ぎ。テレビでバレるで」
真司郎が目を細めて、茶化そうとする。
確かにこんな顔のまま、テレビに映ったらどうなるか。
それはわかっている。
だから最近はインスタも撮りだめてあったものや、自分じゃないものをあげている。
「…ふぅ
みんな、まだ時間がかかるよね」
仕事上まだ千晃の件を知らされていない人たちとも一緒になるので、表向きには普段と変わらない私たちを演じていても、
それでもどこか、隠し切れない暗い雰囲気が出ているように思う。
直也君も秀太も、ほとんど何も話さないし、
にっしーや日高君はソロの仕事で忙しいし、
私と真司郎だけが千晃と話しているような気がする。
「自分は?
俺は正直実彩子が一番心配やねんけど」
「…大丈夫だよ」
私は…
一度千晃を責めないと決めた。
千晃を応援すると決めた。
だから
「バレバレやから。
確かにみんな、自分のことでいっぱいいっぱいやけど、みんな、実彩子のこと心配してるで。
あ、もちろん千晃のこともや」
「…」
「俺に言えんくてもいいから、にっしーとか日高には言いや」
見透かされてるのかな。
前に進むと決めたのに、まだ全然進めない、複雑な気持ちが。
「別に真司郎に言わないわけじゃないし
ただ
実感がね、
千晃がいなくなるっていう実感が、まだ沸かなくて。
話を聞いた時は、寂しいとか嫌だとか、なんかいろんな感情が一気に沸いてきてパニックだったんだけど。
時間が経てば経つほど、
なんだか夢だったのかな、とか思っちゃって。
駄目だよね、私が一番まだ受け入れられてないのかも」
千晃がいる現場が、いない現場になる。
7人で立っていた舞台が、6人になる。
言葉ではわかっているのに、
本当は何も、
理解できていないし、
まだ理解したくない…
グループのことも、ユニットのことも。
まだ心も頭もぐるぐる回ってるみたい。
出口が見えない。
そもそも出口なんてあるのかな。
それさえ、わかんないんだよ…
「実彩子だけやない・・・俺も実感ないわ。
だってさ、まだなにも変わらんやん。
来年発売される雑誌の撮影だってあったし、
写真集のインタビューだってあったし、
レコ大とか紅白のリハだって7人や。
NYPだってある。
7人じゃない姿なんて、…まだ想像できへんわ」
真司郎…同じだね。
どれだけ想像しても、
現実味がないの。
「そだね…まだ7人だもんね
想像できないよね
でも
いつか慣れちゃうだよね
それは…寂しいね」
千晃がいない、6人で立つライブ。
確かに過去にもあった。
だけど、それは戻ってくるって分かってたからだから頑張れた。
千晃が、怪我を治して、安心して戻ってこれるように、皆で頑張った。
でも、もう千晃は戻ってこない。
そんなAAAの姿、今は想像できないよ。
慣れちゃう日がいつか来るとしても、
今はまだそれを想像することさえ出来ない。
千晃がいない。
そんな日を想像しなきゃいけないなんて、
まだ考えたくないよ。
でも真司郎と話すことが出来て、
決して自分だけが悩んでいるのではない。
メンバーみんな、どうすればこのことを消化できるのか考えてるんだ。
「時間が解決してくれるんかなぁ」
そうだといいな。
今はまだ、重い鉛のようなものが心に沈殿したまま、
どうすればそれが溶けたり、軽くなったりするのかわからないけど、
いつか時間が解決してくれるのかな。
今、
このまま苦しい時を過ごせば
いつか、この苦しい日が終わって、笑いあえる日が来るのかな。
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