My wish is... 第十三話
二人が見つめあったのはどれくらいの時間だったのだろう。
一瞬だったかもしれないし、はたまた5分くらいだったのかもしれない。
でもどちらかが言葉を発するまで目が逸らせなかった。
「…宇野ちゃ」
「千晃、妊娠おめでとう。
まだちゃんと言えてなかった」
その場からお互い動けないまま、
ただ言葉だけが出てきた。
「っごめん、
ごめんなさいっ!!!」
千晃が蹲るように床にしゃがみこんだ。
「千晃!
赤ちゃんがびっくりするよ!
ほら、座って!」
駆け寄って、誰もいなくなったミーティングルームの椅子に千晃を座らせ、
私は膝をついて下から千晃を見上げた。
千晃は、一人でどれくらい悩んだのだろう。
その顔は化粧では隠し切れないほど疲れ切っていた。
「宇野ちゃん、ごめんね、ごめんね」
千晃の目から涙がぽたぽたこぼれ落ちる。
「千晃、もう謝らないで。
おめでたいことなんだよ、おめでとうって言いたいんだよ」
私の目からも後からあとから涙が溢れてきて、
千晃の手を握りしめながら、体が震えていた。
「千晃がお母さんになるって、すごいことなんだよ」
「でもっこんな、こんなタイミングでっ」
「しょうがないよ。それはしょうがない。
だって、もう決めたんでしょ?
千晃はお母さんになるって決めたんでしょ?」
「うん、うん、
私は決めたのっ」
「うん、なら謝らないでよ」
「…ぅう、許して、宇野ちゃん」
「許すとか許さないとかじゃないよっ、
千晃はお母さんになるんだよ。
千晃しかその子のお母さんになれないんだよっ。
だから、
だから、っ
さみしいけど、
悲しいけど、
千晃が決めたことを私は応援するよ。
千晃が悩んで決めたこと、ちゃんとわかってるよ。
っ私たち、ずっと女子二人で頑張ってきたよね。
喧嘩もしたし、うまくかない時もあったけどっ
私、千晃がいてくれて本当に良かったって思ってる。
短い間だったけど、二人でMISACHIAもできてっ幸せだったよ。
この先も一緒にやっていきたいけど、千晃が選んだ道を応援したい。
千晃がいなくなったら、さみしいけど、
でも、
私、頑張るから、千晃も頑張って
ごめんじゃなくて、ありがとうってそう言って」
私たちはしばらくの間、ただお互いを抱きしめて泣き続けた。
これからは別の道を歩むことになる。
きっと千晃も、私も、
簡単な道じゃない。
でも、決めたの。
もう千晃を責めない。
もう引き留めない。
私は千晃の背中を押したい。
千晃が決めた道を歩いていけるように。
そして、私も、
私の道を歩いて行かなくちゃいけない。
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