『思い描く未来』
学生時代の友人と偶然、表参道を散歩しているときに再会した。
「えっ、みさちゃん?」
「えっ有紀?」
「うわぁ久しぶり!元気してた?」
「うん、元気してたよっ、そっちは?」
平日の午後。
少しずつ秋らしくなり、羽織物が必要な頃。
私は散歩がてらに買い物中で、手にはたくさんの袋を持っていた。
「何年ぶりだろ?
卒業してからだからもう10年以上経ってるね」
「そうだね、よくわかったね」
「えっだってテレビで見るよ、毎年年末に(笑)」
「あ、、、、そっか。そうだね」
有紀はベビーカーを押していた。
ベビーカーにはピンク色の薄手の布がかかっていて、女の子なのだと気づいた。
「何か月?」
「今6か月だよ。
やっと外に出れるようになったくらい」
同じ小中高で過ごし、卒業後女子大へ進んだ彼女は現在誰かの妻で、この女の子の母親なのが少し不思議に感じた。
「すっかりお母さんの顔だね」
「みさちゃんは、相変わらず綺麗だね。羨ましいよ」
そういって笑う彼女のほうが綺麗だと思った。
ぽかぽかと暖かな優しい笑みを浮かべて女の子を見る母親の彼女。
私にはできない、美しい笑顔だった。
今年30歳になり、周りの友人たちの何人かは結婚し、彼女と同じように母親になった。
それに焦りを覚えないとは言わない。
私だって普通のアラサー女子だ。
『結婚しないの?』
久しぶりに実家に帰ったら、嫁いだ姉が甥っ子姪っ子を連れて帰っていた。
久しぶりに家事から解放された姉が母の手伝いをする私にキッチンカウンター越しに聞いてきた。
『んー、今は無理』
『あっちは何て言ってんの?』
『したいとは言ってくれてる』
家族や親しい友人以外には隠している私たちの関係も、もう何年になるだろう。
何度も別れてはくっついて、
もうだめだと、
もうこの手を離そうと何度も思ったけれど。
『女には適齢期ってのがあるのよ』
私たちが付き合ってからのいろんなことをちゃんと母や姉に話したことはない。
だけど、耐えきれなくて逃げ出した私を何も言わず受け入れてくれるのは家族しかなくて、
いつもその度に母も姉も何も聞かず、私の好きなものを食べさせてくれる。
優しく背中をさすってくれる。
『うん、私よりもにっしーのほうが気にしてるみたい』
今まで何度も壊れた関係。
お互いになくてはならないのに、
いなくなれば息をするのも苦しいのに、
それでもお互いを求めれば求めるほどたくさんのものを傷つけた。
そして自分たち自身を傷つけた。
離れるのがいいのだと、そういう選択をしたこともあった。
『へぇ、じゃぁ話は出てるんだ?』
『…まぁ、でも仕事の関係もあってそんなにすぐってわけではないし、まだ会社と話し始めたとこ』
私が29歳の誕生日を迎えたころから、目に見えてにっしーが『結婚』というのを意識し始めた。
ソロを形にするためにここ何年も地道に活動していたが、今までにないほど精力的で、いずれグループが無くなっても、ちゃんとソロで戦っていけるようにしたいと話していた。
『結婚したら子供欲しいやん。
俺と実彩子の子なら絶対可愛いって。
でもさすがに実彩子が抜けたらAAAは無理だろ。
だからグループは休止か解散になることを考えとかないとな』
グループがなくなる、そのことを考えたくない私と、
その先を見据えるにっしー。
優しいのか、冷たいのか、
そのことでも喧嘩をしたけど、
『結婚したら今以上に頑張らなあかんやん』
ちゃんと私との未来を考えてくれているのだとはわかっていた。
『そのうちみさのウェディングドレス姿が見れるのかぁ』
『あら、お父さん寂しがるわね』
揚げ物をしていた母が嬉しそうに笑う。
『お父さん、隆弘君のこと気に入ってるし、喜ぶでしょ』
『それとこれとは別よ、でも、安心するわね』
母と姉が心から楽しみにしてくれていることに照れくさくなって、
私は出来上がった料理をダイニングに運ぶ役に徹した。
ずっと心配をかけてきた家族。
『まだ先のことだけど、
ちゃんと二人揃って挨拶に来るからね』
そう言って、次の日実家を後にした。
『ねぇ、私ね、
うちの家族が理想なの』
『頼りがいのあるお父さんがいて、料理上手のお母さんがいて、
可愛い娘と息子がいる家ね(笑)、俺もそれが理想だな』
ねぇ、いつか、
本当にそういう家庭を二人で築こう?
音楽と笑顔が溢れる、そんな家庭を二人で作ろ。
私は隆弘が好きな和食を週の半分は作るよ。
だから仕事をたまには早く切り上げて帰ってきて。
二人の記念日には美味しいケーキと綺麗な花を飾って、
『愛してるよ』ってキスをしようね。
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こんばんは。
一話完結型の短編を書いてみました。
なんとなく私が妄想するたかうのの関係はこんな感じです。
皆さまはどんな二人を想像していますか?
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